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☆☆☆ テメェは一体何様だ-1 ☆☆☆
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謎の誘いに、もちろんロクは即座に断りを入れた。けれどじいやは
なおもロクに誘いかけ、最後には「仲間にもっと楽をさせてやれるぞ」
という一言に背中を押され、結局ロクはまずは話を聞くということで
彼についていくことを決意する。
そしてじいやの運転する黒い車に揺られること数十分。ロクを乗せた
車はとある大きな屋敷の門を通り抜けた。
「お、おいおいじいやさん本当にここかよ? ここってサザーランド家の
屋敷じゃねぇか」
門を通り美しく整えられた庭に走る道を突き進む車が向かう先には
ロクが先ほど襲撃した屋敷よりもはるかに大きなそれが悠然とそびえている。
そこに連れて行かれている自分も連れて行こうとしているじいやも、むしろ
この状況すら夢のように思えてきた。
サザーランド家は旧家のひとつで多くの土地・建物などを所有する有数の
金持ちだ。間違ってもロクのようなスラム育ちの人間が招かれるような
ところではない。
(もしかしてこのじいやさん俺のこと捕まえる気か……?)
記憶にある限りサザーランド家の所有物やその傘下に当たるものに
手を出した覚えはない。サザーランド家は金も物も大量に有しているが
決して汚い手段をとってきたわけではなく、さらにスラムへの寄付も
時折行ってくれている。むしろ感謝すべき相手だ。
その相手を疑うのは心苦しいが、互いの立場上、ロクは疑念を
持たざるを得なかった。
いつでも戦えるように。気を張り警戒を強めるロクに、しかしじいやは
カラカラと軽く笑い出す。
「そうおびえるでない。別に取って食いやせんよ。お主にはうちの
若様に会ってほしいんじゃ」
若様、と言われて思いつくのは4年前に前当主が病気療養のため
前線を退いた際にその後を継いだ青年――アドルフ・サザーランドだ。
確か鷹のような目をした厳つい男だったと記憶している。その容姿で
実は積極的なスラム改善派というのだから驚きだ。
「おっと、言うておくがだんな様ではないぞい。お主に会ってほしいのは
その弟君であるクロード様じゃ」
弟。そういえば確かに弟がいた気がする。兄とは真逆に痩身で整った
容姿をしていたと思う。何がしかで有名だった気がするが、あまりに
兄の姿が濃すぎるためにどうにも印象に残らない。
「……で、その若様が俺に何の用事なんだよ?」
今更ではあるが身を乗り出して用件を聞き直すロクに、じいやは
眉を上げていかにも彼が何を言っているのか分からないといった
様子を見せる。
「用件じゃったら言ったじゃろうに」
「『怪盗やらねぇか』だけで分かる奴がいたらお目にかかりてぇよ。
そんなんじゃなくて、何で俺にそんな誘いかけたのか。そもそも
何がやりたくて怪盗だなんて言ってんのか」
ミラー越しにじいやを睨むと、返されたのは面白がっているような
深いまなざしだった。
祖母や父がするのと似た、何もかも見通しているようなそれに、
ロクはぞわりと肌をあわ立てる。このまなざしは年寄り特有なのか。
だが少なくともロクの人生の中でこんなまなざしをする者は祖母と
父の他にはただ一人しか知らない。
じいやは言葉をなくし固まるロクにふっと口元を緩める。
「お主怪盗と聞いても呆れんのぅ。普通まずは頭の心配せんかね?」
まるで経験があるというような台詞を受けてロクは前のめりに
していた姿勢を戻し、背もたれに寄りかかって鷹揚に笑った。
「こちとら盗みを生業にしてんだ。怪盗だろうが盗人だろうが
関係ねぇよ」
結局同じだろうと言外にこめると、じいやはひげを揺らして
笑い出した。「そうかそうか同じか」とその声は楽しげに
車の中に響く。ロクはその声の中、ひっそりと息を吐き出した。
更なる追求が来なかったのはありがたいと言っていい。ここで
ほいほいと答えられるような答えはロクの手の中にはなく、
自分で話を変える手間が省けたというものだ。
「まあとにかく、まずは会ってみておくれ」
それがその時の会話の最後の台詞。そのすぐ後に、ロクたちは
車を降り、屋敷の中へと入っていく。
~続く~