ポッキーゲーム ロニアル
「ポッキーゲーム?」
告げられた単語を、アルバはそのまま鸚鵡返しにする。
告げた側であるロニーことロナルドは、頷きながら姉から
渡されたチョコ菓子の箱を軽く揺らした。
「うん。なんかねー、一本を両端から食べてくんだって」
自身でもよく分かっていないのか、ロナルドは蛙のフードを
被ったままの頭を傾げる。姉から菓子を貰った際にざっくりと
説明を受けたものの、どういうゲームなのかはいまいちよく
分かってはいなかった。アルバとやったらどうだと言われたので、
言われるままに彼女の元にやって来たのである。
「でもゲームってことは遊びだよね? 食べ物で遊んじゃ
駄目だってマーシャさんが……」
「僕も姉ちゃんにそう言ったんだけど、そばにいたジーンさんが
これはやっていいんだって」
ジーンさんも? 問い返したアルバは頭に鉢巻のように
巻いている飾りの付いた長布の端をいじった。ロナルドの姉
リーゼことリーゼロッテ、そしてジーン。ふたりの信頼に足る
人物たちが「やってもいい」と言っている。ならば、怒られる
ようなものではないはず。親や親代わりの人たちの教えを
気にしていたいい子なふたりは、少しの逡巡の後結局好奇心に負けた。
袋からチョコ菓子を一本取り出すと、ロナルドはチョコがついている
側をアルバの口元に寄せる。断ろうとしたがその拍子に動いた唇に菓子の
先端が触れてしまった。流石に口がついたものを友人に向けるのは悪い気が
したので、アルバはそれを素直にくわえる。その反対側を同じように
ロナルドがくわえた。その途端合った群青と赤紫の双眸の持ち主たちは、
思いのほか近い距離に覚えずどきりとする。しかしその意味も分からぬまま、
ふたりは菓子をかじりだした。
カリカリと音を立て菓子は双方の口の中に消えていく。美味しいなぁ。
このゲーム一体何なんだろうなぁ。そんなことを考えながら、アルバと
ロナルドはどんどん近付いてい来る相手の顔をぼんやり眺めていた。
しかし不意に気付く。
あれ、これこのまま行くと――。
子供には刺激の強い単語とイメージが頭に浮かんだ瞬間、少年少女の
顔は火を焚いたかのように赤くなり、ロナルドが歯を食いしばった拍子に
菓子は彼の近くでぽきりと折れた。かなり近付いていたためお互いの口元に
残る菓子はあと僅かになっている。誤魔化すようにそれをガリガリと噛み
砕くと、ふたりは赤くなった顔をバッと合わせた。
「やっ、やっぱり食べ物で遊ぶのはよくないね!」
「そっ、そうだね! よくないね! もうやめておこうか!」
照れ隠しと一発で気付けない方が難しいほど極端な大声だが、互いに
何でもないように装いたいので気付かない振りをする。とりあえず残りは
袋でふたりで分けよう、と話し合うアルバたちを、影で見守る者がふたり。
「あー、惜しいもうちょっと」
「このままバレねぇと思ったんだがな」
――もとい、出歯亀する影がふたつ。純粋なふたりをだまくらかした
犯人であるリーゼロッテとジーンだ。普段犬猿なふたりだが、ことアルバと
ロナルドをからかう――可愛がる際は意外なほど協力的になる(結局最後
には喧嘩することが大半だが)。今回も何も知らない二人を騙し大いに
楽しむつもりであったのだが、残念なことに今回は気付かれてしまった。
男女の区別がついてきた、ということで喜ぶべきことかもしれないが。
「……このおふたりはお互いの恋人を放っておいて何をして
らっしゃるのかしら」
そう呟いたのは、また喧嘩が始まりそうなやり取りを小声で
始めているリーゼロッテたちを見かけたユーニスだ。兄と信頼に
おける女性とのやり取りに、冷静な少女は呆れることしか出来なかった。
そんな出歯亀たちの事情など露知らず、まだ赤い顔のふたりは、
それでも何ともない振りをしながら分け合ったチョコ菓子をそれぞれ
頬張っている。
極個人的な話ですが、ロニーとアルバはCP要素ありでも
なしでも美味しい。私的に。