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その日、忍とタマは風吹く宮に訪れていた。残暑厳しいある日に騒ぎを持ち込んだことへの侘びをしに来たのだが、何故かそのまま昼食に招待されてしまったのだ。現在は、それまでの時間つぶしということで宮内を探索している。
「それにしても、お詫びに参ったのにお邪魔してしまってよいのでしょうか」
しっかりと剪定のされた庭を見とれるように眺めていたタマがふと思い出したように隣を歩いている忍を見上げた。
同様に庭を感心の眼差しで眺めていた忍は肩を竦めて笑って見せる。
「私も思ったが……まあ、折角のご好意だ。甘えさせてもらおう?」
風吹く宮の住人はイベントや来客が好きらしく、最初は挨拶に行った謝に誘われ、遠慮していたら偶然やって来た他の面々に次々に誘われた。これで帰ったら逆に怒られてしまうだろう。
またユアちゃんに怒られるのはごめんだからね、と微苦笑を浮かべて付け足した忍にタマは口元を着物の袖で隠しながらくすくすと笑った。
「ふふふ、そうですわね。――――あら?」
いつもならば隠しているが、ここの住人は皆タマが猫又だと知っているので出したままにしていた猫の耳がぴくぴくとが動く。それは音を探るような動作であり、気付いた忍はどうしたのかと目で尋ねた。タマは音が聞こえてきているであろう方向を見ながらそちらを指差す。
「あちらの方から、何か騒がしい音が聞こえますわ」
振り切られた木の剣の切っ先が剣の主に向かって走っていた少女に迫る。少女はそれを僅かに身をそらすだけで避けると、さらに踏み込み剣の主である青年に自身の剣を突き出した。
しかし、勢いを乗せていなかったのか振り切った後とは思えないほどの速度で青年の剣は戻ってきて、少女の剣を受け止める。
高く衝突の音を響かせると、青年と少女は身の前で剣を交差させ押し合いで力の均衡を保った。その間には強い眼差しが入り混じり、一見すると真剣勝負のようにも見える。
そしてその"一見"をそのまま受け入れてしまった忍とタマは少し慌てて駆け寄った。
「わ、わー! 凄いなぁ! 迫力! なあタマ」
「え、ええ! そうですわね忍様! 凄い迫力ですわ! さすが清風さんと秋菊さん」
わざとらしい大声に、彼らの存在に気付いた青年と少女……清風と秋菊は、剣を合わせたままそちらに目を向け、ついで互いに顔を見合わせる。
そして、どうやら勘違いされてしまったらしいと気付くと秋菊は笑い、清風は呆れたように肩を竦めた。
そうしてどちらともなく均衡を解くと、秋菊が包拳して忍とタマに丁寧に頭を下げる。
「お久しぶりです、忍さん、タマさん。その後お変わりありませんか?」
にこりと平時通りに明るく笑う秋菊、そして斜め後ろに表情こそ変わらないが怒りを思わせる空気はまとっていない清風のふたりの様子を見て、忍とタマは顔を見合わせた。これはもしかして――――
「あ、あはは、もしかして勘違いしちゃいましたかね」
頭の後ろを掻きながら苦笑を浮かべる忍に秋菊は肩を竦めて笑って見せる。それが十分すぎるほどの答えになり、隣り合った忍とタマは力を抜いて笑った。
「お稽古でしたのね。あんまりに真剣な空気だったから勘違いしちゃいましたわ」
「ふふふ、よく言われます。この間も卯月ちゃんにも止められちゃいましたよ」
同じ宮の者でさえ間違うほどの空気。それは間違えても仕方ない。
言外にそう込めているような言い回しにタマはほっとしたように笑い返す。
そしていいことを思いついたというように手を叩き合わせた。
「清風さん、よければうちの忍様に剣の手ほどきをしてやってはくださいません?」
突然の提案に清風は不思議そうな顔を、忍は驚愕に満ちた顔をする。
「いや、俺は手ほどきが出来るような性質では……」
「あらそんな。ご謙遜なさらず」
「剣なら私の木剣お貸ししますよ」
「秋菊さんノリノリですか!? ままま、待ってくださいそういうのは無茶振りといいましてね」
戸惑う当事者たちを置いてけぼりに盛り上がった女性陣の後押しを受け、結局忍は秋菊から木剣を受け取り、清風と対峙することになった。
どうしてこうなった
やっぱりまだ怒っていたのか
あれ私これ死亡フラグ?
剣道のように剣を両手で持ちながらも腰が引けている忍は大慌ての心情を脳内で繰り返す。
そして、はじめの合図がかかった瞬間、一足飛びに近付いてきた清風にぎょっとして後方にたたらを踏んでしまった。
するとその体は一度も剣を合わせぬままに後ろへと引きずられ、忍は盛大に尻餅をつく。
「……剣を当てられるどころか合わせもしないうちに倒れるなんて……ああ情けない」
「あ、あはは。仕方ないですよ。清風さん霽一の兇手でしたし、いきなり迫ってきたらやっぱり怖いですって」
着物の袖で顔を覆いたらりと汗をかいて呆れるタマ。それを宥める秋菊。秋菊のフォローを聞きながら『正にその通り』と忍は内心で大いに頷いた。
「…………大丈夫か?」
剣を構えた状態のままの清風が尋ねてくる。立ち上がるのを待っている、というよりは事態についていけずにそのままになってしまっているような彼に、忍は頭の後ろに手を当て頬に汗をたらしながら微苦笑を浮かべる。
「あ、は、はい。すみません何か、付き合ってもらったのに」
「いや、それは構わんが……忍、さすがに、先ほどのは腰が引けすぎだ」
「はは、は。はい……」
侘びに来て、招待され、手合わせすることになり、剣を交わす前に尻餅をついた。
我ながらどんな状況だ。忍は力のない笑みをこぼす。
何だか忍さんとタマさんはうちのおなじみのお客さんに
なりつつあります。えへ(´∀`*)
ちなみに今回の小話は参加表明の際ご希望いただきました
シーンを表せたらいいなと言う思いをこめて……!
ど、どうでしたかコウセイさん(・ω・;){どきどき