私が知っているのは人の傷付け方だけ。
目の前の人が、私の言葉で、行動で、傷付いているのは分かってる。
けれど私は人を慰める術を知らない。
けれど私は人を笑顔にする方法を知らない。
私が知っているのは人の傷付け方だけ。
だって仕方ないでしょ?
皆が私を嫌いなんだから――――。
というわけで、今日ちょっと同人さんの漫画を読む機会がありまして
堪能してきました若槻です。
頭に書いたのは、若槻が一番印象に残った話の……なんだろう。
感想とも言えないし――――印象?的なものです。
いっちゃん下にもも一回入りますノ
読んで分かるとおり明るい話じゃありません。
ラストも素直にハッピーとは言えない気がします。
タイトルは「傷」で、主人公は人付き合いが苦手な中学生の女の子・
吉野亜弥(あや)ちゃん。
物語は小学生の彼女が友達を泣かせたところから始まります。
「亜弥ちゃんなんか嫌い」
子供のよくある喧嘩。こう言った友達も本気で言ったわけではなかった
でしょう。けれどその言葉が、亜弥ちゃんの生き方を変えてしまいます。
その子は亜弥ちゃんの親友でした。その子に「嫌い」と言われた
亜弥ちゃんは、生来のネガティブ思考がフル活動してしまい
周りの全てが自分の事を嫌っていると思いこむようになりました。
そして自分を嫌いな人間相手に、この騒動の前から人付き合いが
苦手な亜弥ちゃんが笑えるはずがなかったのです。
疑心暗鬼の亜弥ちゃんは段々と、人を傷付けるような言動を取るように
なってしまいました。
その対象は友達であり先輩であり後輩であり先生であり、
そして、家族でした。
亜弥ちゃんはお父さん、お母さん、お兄ちゃん、弟の五人家族の
真ん中です(←若槻と一緒の家族構成&ポジションに驚きましたΣ)。
お父さんは会社員。お母さんはパートさん。お兄ちゃんは高校生で、
弟くんは小学生です。
仲良しな家族ですが、いつもそこに亜弥ちゃんが石を投じてしまいます。
お母さんはそんな亜弥ちゃんを心配し、
お兄ちゃんは面倒くさがりながらも間を取り持たせようとし、
弟くんは素直に亜弥ちゃんを好きでいました。
ここで反応してしまうのが、お父さんでした。
お父さんはいつも仏頂面であれこれと文句ばかりの亜弥ちゃんが
気に入らないのか大声で叱ったり、時には手も上げていました。
そんなお父さんが亜弥ちゃんは目下一番嫌いな人でした。
命令ばかりで、怒鳴ってばかりで、いつも亜弥ちゃんばかり怒るから。
けれど亜弥ちゃんは、嫌いな反面知っていました。
お父さんがいつも夜遅くまで仕事を頑張っていることを。
そうしないと家計が苦しくて仕方ないということを。
だけどそんなこと口が裂けても言えませんでした。
理由は、お父さんは自分の事を嫌いだから、だそうです。
亜弥ちゃんは自分を養ってくれているのはお兄ちゃんと弟くんの
ついでだと思っていたのです。
……彼女は人一人養うのがどれだけ大変か分からなかったのです。
今は生んでもすぐに捨てたり最悪殺すような人たちが大勢いるのに、
それでも苦しい家計の中頑張って育ててくれたお父さんが、亜弥ちゃんを
嫌いなはずがないのに。
さて物語の終盤です。
ある夜、いつものようにお父さんと喧嘩をしていた亜弥ちゃんは
とっさに叫んでしまいます。
「あんたなんか大嫌いだっ!!」
たった一言。だけど取り返しのつかない一言。
シンと部屋が静まり返ります。烈火のごとく怒るかと思ったお父さんが
あまりに静かでびっくりしていると、次のページを捲って嫌な意味で
ドキッとしました。
お父さんは、とても傷付いた顔をしていました。
亜弥ちゃんも同様にビクッとしたようです。こんな反応が返ってくるなんて
思っていなかったのでしょう。
お母さんが気遣わしげに声をかけると、お父さんはふらりとリビングから
出て行ってしまいました。
このとき最後に口から零れた言葉にひどく胸が痛みます。
「一生懸命頑張って育ててきたんだけど、駄目だったみたいだなぁ……」
寂しげな台詞に亜弥ちゃんもズキズキと胸を痛めていました。
けれど、引き止めたくても凍りついたように言葉が出てこない。
結局、お父さんは振り返ることもなく出て行ってしまいました。
玄関の音がして、お父さんが外に行ったことが分かりました。
……さあ、ここまできたらオチが分かった方もいるでしょう。
この後、深夜に近いほど遅くに吉野家に一本の電話が
掛かってきました。相手は――――警察。
何があったのか。
青ざめる家族たちの心情をはかったかのように、受話器の向こうの
警官は重苦しくこう言いました。
「お父さんが、車に引かれて――死亡しました」
何かが崩れる音がした。
家族が泣き崩れる中、亜弥ちゃんだけは呆然と立ち尽くしていました。
物語のラストのラスト、お葬式の後のことです。
真っ暗な自室に入った亜弥ちゃんは、電気もつけずに部屋の中に
立ち尽くしていました。
頭の中に響くのは、自分が言ったあの言葉。
『あんたなんか大嫌いだっ!』
何度も何度も繰り返す、決して巻き戻せないその言葉。
気付いたら、あの夜から一度も泣いていなかった亜弥ちゃんの
目には涙が浮かび、それはどんどんこぼれて亜弥ちゃんの頬を
濡らしていきます。
ベッドに縋り、彼女は泣きます。
「頑張ってるのなんて、知ってたよ……っ」
今さら言っても遅い言葉。
「大嫌いなんて嘘だよ……っ」
今さら言っても意味のない言葉。
「……っごめんなさい…………っっ」
今さら言っても――――届かない言葉。
最後に見たのは悲しそうな顔。
彼女は傷付けるしかできなかった自分を呪いました。
後悔して後悔して、たくさん泣いて、亜弥ちゃんは
ようやく前を向くことを決めました。
あの日から、小学生の頃からずっと俯きながら歩いてきた
道を、今度は前を向いて歩いていくことに決めました。
最後の1ページ、朝の登校時に、亜弥ちゃんは前を歩く
女の子に声をかけます。
その子は、小学生の頃「親友」と呼んだあの子。
「お、おは、よう」
親友の子は振り返り、驚き、泣きそうな顔をし、そして最後に
笑いました。
「おはよう」、と。
私が知っていたのは人の傷付け方だけ。
目の前の人が私の言葉で、行動で、傷付いていたのは分かってた。
だけどやめられなかった。
全部私が弱かったから。
今でも私は弱いけど、前より少し、優しくなれた気がしている。
だって私はようやく知った。
この世には取り返しのつかないことがたくさんあるんだってこと。
傷付けて傷付けて、そうしたら、その人と傷つけたまま
お別れすることだってあるんだってこと。
私が知っているのは人の傷付け方だけ。
今もそれは変わらない。
だけどこれから知っていこう。
人を笑顔にする方法。
人を慰める方法。
私はもっと、優しくなろう。
長々しかったですね。以上ですノ
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